【読んだ】待鳥聡史『政治改革再考 変貌を遂げた国家の軌跡』

面白かった。90年代からの一連の政治改革(行政改革/日銀大蔵省改革/司法制度改革/地方分権改革)についての本はこれまでも読んだ事があったけど、本書は「土着化」という概念を元にそれらを包括的に分析する。まず一連の改革の根底には、著者が「近代主…

【読んだ】志田陽子『「表現の自由」の明日へ 一人ひとりのために、共存社会のために』

■民主主義という概念が超ロジカルなものなのだと再確認した。民主主義のコンセプトや、表現の自由の必要性みたいな理念と並行して示されるのは、それが法体系の中でどう論理的な整合性をもって運用されているのか、という話だった。むしろ強調されていたその…

【読んだ】暮沢剛巳『美術館の政治学』

一言で言えば、日本の美術館や文化施設を例に、それがどんな政治的/経済的背景の中で作られ、運営されてるのかという本。東博や民藝館から、国立新美や金沢21世紀まで時制は幅広いが、上梓されたのが2007年なので後者については進行形で書かれている。地方…

【読んだ】遠藤周作『海と毒薬』

生体解剖の描写は執拗で露骨でショッキングで、読み進めるのに時間がかかった。そしてこの露骨さは、本作の構造上絶対必要なのだと思う。上田と戸田の内面告白では、例えば宗教による行動規範の欠如を埋め合わせて(しまって)いるものが曲がりなりにも示さ…

【読んだ】マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』

あらゆる物は「意味の場」の中にしか存在しない。我々はこの「意味の場」とセットになった物を認識しているが、それ自体が「物自体」である(故に我々は物自体を認識できている)。この「意味の場」は多様で、それを統括する「世界」など存在しない。カント…

【読んだ】暮沢剛巳『オリンピックと万博 巨大イベントのデザイン史』

▼日本に「デザイン」という概念を普及させたのは1960年に開かれた「世界デザイン会議」であり、そこではデザイナーのミッション、とりわけ社会的な責務について確認されたと。1964年の東京五輪と1970年の大阪万博はその概念の実体化をする機会だったと。本書…

【読んだ】中北浩爾『自民党 「一強」の実像』

▼頻繁に言われる様に、かつての自民党政治の特徴は「(1)ボトムアップとコンセンサスを重視する意思決定」と、「(2)派閥政治によって生まれる党内の多様性」であり、これが利益誘導政治をもたらしていたと。それが94年の政治改革、小泉改革、民主党への政…

【読んだ】伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』

▼「情報」と「意味」の違いについて。「情報」が客観的でニュートラルなものであるのに対し、「意味」とは「情報」が具体的な文脈に置かれた時に生まれるものである(p31−32)。おそらく本書は、個人の身体(と環境のコミュニケーション)を文脈として捉えた…

【読んだ】太下義之『アーツカウンシル アームズ・レングスの現実を超えて』

▼アームズレングスなる原則があると。本書の文脈においてこれは、助成団体たるアーツカウンシルが政府と一定の距離を保つ事を指すと。でもまぁ普通に「え、アーツカウンシルって公的機関っぽいけどそんなんできるん?」ってなるけど、まぁ案の定絵に描いた餅…

【読んだ】清水高志『実在への殺到』

▼物凄く大雑把に言って、思弁的実在論、オブジェクト指向存在論、人類学の存在論的転回等々、ここ数年の人文学の潮流は、カント的な主客図式を乗り越えるためにモノと人間の様相(フラットネス)を再考しつつ、主体客体の概念を練り直しているのかと。本書は…

【読んだ】勝川俊雄『魚が食べられなくなる日』

▼なるほどこれは評判通り面白い。問題化されているのは水産行政の無策っぷりな訳ですが、その分析を通じて、今の日本全体が抱える構造的問題が浮かび上がる。▼日本の漁業の現状について。日本の海洋資源は枯渇しているが、何ら対策を打っていない。一刻も早…

【読んだ】橋本健二『新・日本の階級社会』

▼要するに経済構造の矛盾が非正規雇用の人に集中してますよ、という割とマルクスさんなお話。定義やニュアンスの説明に色々不足はあるなと思ったんですけど、しかし「階級」という言葉に政治的なインパクトを意図されてるのは明らかかと。ただ同時に著者は、…

【読んだ】小泉義之『あたらしい狂気の歴史』

▼大前提として著者は、狂気を肯定し、おそらくは期待もしている。しかしその狂気は、かつての左派知識人が期待を込めたものとは違うと。かつて、狂気は言語の問題として捉えられ、知識人はそこに人間解放の夢を見た。しかし、現在の狂気(とされているもの)…

【読んだ】ジル・ドゥルーズ著 國分功一郎訳『カントの批判哲学』

▼訳者解説が白眉。「ここからここまではカントの話」「ここからドゥルーズの話」っていうのをものっすごい明確にした上で、この本が後のドゥルーズの論にどう引き継がれていくのかというのがすごくよく分かる。▼カント先生の哲学に出てくる能力って、第1に「…

【読んだ】ロバート ヒューイソン『文化資本 クリエイティブ・ブリテンの盛衰』

▼ロンドンオリンピックに前後してイギリスの文化政策周りで起こった事柄をルポ的に書いた本。文化論的な話で結論づけようとしているけどそこはなんかとってつけた様な話で(※)、基本的には人事と予算配分の政治的な動きを追う感じ。訳者もあとがきで書いて…

【読んだ】熊野純彦『カント 美と倫理とのはざまで』

■基本的には、第三批判を主としてカントの哲学概念を解説する本。カントって多分、色んな概念を他の概念との関係の中で定義付けていった人だと思うんだが、第三批判でのそれは病的に精密かつラディカルだったっぽい。なのでこの本も基本的にはとことん論理的…

【読んだ】立岩真也『自閉症連続体の時代』

■病の定義や、診断や治療がなされる時、そこには一定の社会的な権力性がある事を著者はまず認めている。それは「医療化批判」としてこれまでも言われてきたことなのだけど、しかし一方、こうした社会構築的な医療的対処にはメリットもあると。例えば生理学的…

【読んだ】中尾拓哉『マルセル・デュシャンとチェス』

■読書に限らずこういう態度ってあまり良くないなと思ってはいるのだけど、やっぱチェスのルールと幾何学への理解が不足してると結構つらい。総論に関しては迷う事はなかったのだけど、しかし1番スリリングであろう個別の作品分析に関してあやふやなので悔や…

【読んだ】萱野稔人『死刑 その哲学的考察』

■おそらくは根源的な問題意識として、「議論とはどうあるべきか」という事があるのだと思う。冒頭で「死刑の是非をめぐっては賛成か反対かの二つの立場しかない」(P15)とした上で、賛成派と反対派のいずれの主張にも誤謬や詭弁が含まれることをテンポよく…

【読んだ】吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』

■主張としては、「文系学部は必要、なぜならば文系は「役に立つ」から」というもの。■ただし、一連の文系廃止騒動に関しては、メディアやら文系の教員やらが神経反射的に安倍や文科省の批判に走ってるのはホントにダメで、そもそも「文系不要」の素地は前か…

【読んだ】東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』

■実は論旨はシンプル。西洋哲学がヘーゲル(シュミット、アーレント)的な「成熟」した人間観を志向した結果、リベラリズムは失墜し、コミュニタリアニズム(トランプ的ナショナリズム)とリバタリアニズム(金融エリート的な欲望に基づくグローバリズム)が…

【読んだ】『最後の資本主義』ロバート・B・ライシュ

■ストーリーとしては、、、 【1】今のアメリカの市場はルール設定において超富裕層に超有利だと。要はロビイスト雇う金がある激烈少数派がやりたい放題で、例えば著作権70年的な話が国内的にも国外的にも腐るほどあると。結果として、富の配分が上から下では…

【読んだ】千葉雅也『勉強の哲学 来たるべきバカのために』

■勉強とは「アイロニー=ツッコミ=根拠を疑う事」という縦の軸と「ユーモア=ボケ=見方を変えること」という横の軸の双方を拡大する事だと。とはいえ双方ともに拡大し続ける事は不可能で、有限化が必要だと。ここでアイロニーを強制的に切断するのが「決断…

【読んだ】白波瀬達也『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』

■同じく中公から出てる『社会とは何か』という新書にある通り、「社会」とはシステムではなくてプロセスなんだな、という事を強く感じた。無論、あいりん地区の状況が政策の帰結として生まれてきた側面も無くはないんだが、同時にどの場面でも混在する様々な…

【読んだ】森山至貴『LGBTを読みとく: クィア・スタディーズ入門』

■お題目としてではなく、各論に至るまで「学問知なめんな」というコンセプトが一貫してるのが痛快。冒頭、差別や暴力の問題について「道徳」や「良心」の問題として扱われがちな事を批判し、知識に基づいた判断や行動が必要であると指摘される。無論それは個…

【読書メモ】『ドゥルーズの哲学原理』(随時修正してく)

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)作者: 國分功一郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/06/19メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (28件) を見る■超越論的経験論について 【カント的な主体の「発生」への視座】 ・カントは経験の条…

【読んだ】國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』

■多分、日本のドゥルーズ受容って、良くも悪くもセゾン的というか、消費社会文化的に紹介されたイメージをずっと引きずっていたんでしょうね。なのでドゥルーズの入門書や解説書ってパフォーマティブにその思想を展開するものが多く、良く言えばスリリング、…

【読んだ】水野祐『法のデザイン 創造性とイノベーションは法によって加速する』

■リーガルデザインというコンセプトについて。法を規制や創造の阻害要因と捉えるのでは無く、寧ろイノベーションを加速するための適切な環境設計と捉えるべきだし、(大陸法的と言われる日本においても)今までも実はそうやったんやでと。加えて既存の法体系…

【読んだ】福間良明『「働く青年」と教養の戦後史』

■多分今自分がやってるのって「読書と勉強の間くらいの事を勝手にやる」って事なんだが、やっぱそれ良いな、と思った。本書は、戦後、特に地方から集団就職で上京した若者の間で読まれた「人生雑誌」について分析するもの。竹内洋が析出した様なエリート的教…

【観た】chim↑pom「The other side」

■無人島プロダクションでchim↑pomの個展「The other side」を見てきた。アメリカ国境スレスレにあるメキシコの民家を訪ね、住民と交流しつつツリーハウスを作るドキュメンタリーと、その映像を軸にしたインスタレーション作品。↓ MUJIN-TO Production■インス…