【読んだ】勝川俊雄『魚が食べられなくなる日』

魚が食べられなくなる日 (小学館新書)
▼なるほどこれは評判通り面白い。問題化されているのは水産行政の無策っぷりな訳ですが、その分析を通じて、今の日本全体が抱える構造的問題が浮かび上がる。

▼日本の漁業の現状について。日本の海洋資源は枯渇しているが、何ら対策を打っていない。一刻も早く漁獲規制を取り入れろと。適切な漁獲規制によって長期的な漁獲量を確保し、同時に付加価値をつけて産業成長を図るのが世界的なトレンドで、未だに漁獲規制をしてないのは日本くらいやと。で、これはやっぱ国が旗振れよと。あと、補助金は場当たり的な延命にしかならないから減らすべきと。

海洋資源が減った理由は単純に日本の漁業の乱獲だと。じゃあなぜ放置されたのかというと、端的に日本の政策の戦略のなさだと。EEZの設定前、日本は海外国の沿岸で漁しまくったんだが、EEZの設定の後も漁獲規制を行わなかったと。事実上乱獲だった訳ですが、バブルでイキってたので海外から爆買いできたのと、漁協には補助金バラ撒けたので漁獲が減っても問題化しなかったと。

▼でもまあその後は本朝ご覧の有様なので、漁獲上がらない上になり手不足と高齢化で水産業マジでやばいと。加えて中国さんとか実は滅茶苦茶頭良いので多分今のままだと絶対勝てないと。で、ここまで来ても今も水産庁は頑なに漁獲規制をしようとしない訳ですが、その論理はもう滅茶苦茶だと。研究機関も水産庁天下りでズブズブなので、まともな政策根拠も出ていないと。

▼改革ができないのはやっぱ戦後の体制ひきずっちゃってるからだと。昔は業界団体→族議員→水産官僚、みたいな権益構造があっての事だった訳ですが、もはや今は漁協は票田にならず、そもそも代議士もやる気ないので陳情とかすらできない状況やと。まあなので改革するなら業界に体力があった70-80年代だったけど機会逃したよね、と。で、頻繁に言われるようにキャッチアップでのし上がった本朝、制度を変えるのが苦手なので困ったねと。でも今も頑なに守ってるその制度、EEZ以前の公海自由の原則のもとでできた上に、そもそも国が経済成長してるのが前提になってるからマジでなんとかしないと詰むよ、っていうか既に詰んでるよ、と。

▼読む前は、意識高めの皆さまが溜飲下げる感じの本かと思っていたのですが、著者の筆致がとてもバランスがよく、説得力もありかなり好感を持ちました(生意気すいません)。最後、既得権益批判に終始する事を避けている感じがとても良かったです。中国の水産業の戦略の巧さとか、離島の漁業振興と領土問題の関係とか、そういう資源ナショナリズムに寄った人にも目配せが効いていて、なるほどこれは批判のための批判の本ではないな、と感じました。

魚が食べられなくなる日 (小学館新書)

魚が食べられなくなる日 (小学館新書)