【読んだ】暮沢剛巳『オリンピックと万博 巨大イベントのデザイン史』
▼日本に「デザイン」という概念を普及させたのは1960年に開かれた「世界デザイン会議」であり、そこではデザイナーのミッション、とりわけ社会的な責務について確認されたと。1964年の東京五輪と1970年の大阪万博はその概念の実体化をする機会だったと。本書では、丹下健三、亀倉雄策、勝見勝、岡本太郎の4人のスターがどう東京五輪と大阪万博の双方に関わったのかについて、著者の批評的判断を加えつつ、2020年の東京オリンピックの問題点をあぶり出す、というものかと。
▼デザインの観点から東京オリンピックをみた時に、勝因はデザインポリシーを貫徹した事だと。具体的には、勝見勝の統率のもと、オリンピックに関するすべてのデザインを亀倉雄策のシンボルマークと統一感が出るように徹底させたと。他方、東京オリンピックとほぼ同じ布陣で臨んだ大阪万博に関しては、デザインポリシーの統一に失敗したと(この辺は、吉見俊哉の『万博幻想』にも詳しい)。それはイベントとしての性質の違いもさる事ながら、6年の間にデザイン業界の中に起こった勢力図の変化等々に対応できなかったからだと。
▼他方で万博について、万博のレガシー()として後世に残っているものが、開催当時には不評だったものばかり、というのが興味深い。万博の理念を正当に体現したと思われた菊竹清訓のエキスポタワーはその後注目されずに取り壊され、メタボリズムも万博をピークに衰退すると。他方で開催当時不評だった太陽の塔が永久保存されとると。また、松本俊夫や横尾忠則、中谷芙二子といった面々が参画した「せんい館」や「ペプシ館」は開催当時不人気だったものの、その後高く再評価されていると。おそらくこの辺りは、万博当時は「ノイズ」として捉えられていたものが、後々評価されている、という事なんじゃないかと。
▼2020年の東京オリンピックについては、やはりデザインポリシーの不在が問題だと。加えて、ザハ・ハディドや佐野研二郎の問題で露呈したのは、組織としての脆弱さと、責任の所在の曖昧さだと(言わずもがな、ザハ・ハディドは何も悪くない)。加えてこれは僕の予想ですけど、これらの騒動はおそらく運営組織をますます及び腰にさせたはずで、万博の時の様にノイズの様なものが入る余地はますます少なくなってるんじゃないでしょうか。
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