【読んだ】椹木野衣『日本・現代・美術』

日本・現代・美術
■再読。広義の文化論として捉えると特異性が見出しにくく、重複も多く冗長な印象があったのだけど、しかし括弧つきの「美術」という名の下に行われている展示や批評と対照させて読んでみると、影響力は甚大なんだなと改めて。

■「悪い場所」というコンセプトはなんとなく掴みやすい感じもあるんだが、実はバキッとした定義づけはされていない。「悪い場所」というキーワードと、執筆時点(96-97年)からみた過去作品の数々とを往復させて論じる中で、「悪い場所」というグランドコンセプトと、個々の作品と、双方が意味づけられていく感じ。

■本書で言う「悪い場所」の起源としては、ひとつには明治期のいびつな近代国家の成立過程と急激な西洋文化を輸入があり、もうひとつには敗戦後の高度経済成長および戦後民主主義の成立プロセスがあるのかと。

■で、周知の通り本書の趣旨は、日本の美術ってのは上述の「悪い場所」の構造からは絶対に逃れられない、というもの。そこにおいて「美」とは、「悪い場所」がもたらす矛盾を隠蔽する道具として持ち出される(日本近代文学戦争画の話)。その構造の中で美術に何をができるかというと、露悪的にであれ、悪い場所特有の構造を再提示し、認識を継続させ続けるしかないと。九州派や藤田嗣治を例外として提示している様にも見えるが、その後の受容の感じも含めて考えると論じ方は難しいかと。

日本・現代・美術

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