【読んだ】遠藤周作『海と毒薬』

生体解剖の描写は執拗で露骨でショッキングで、読み進めるのに時間がかかった。そしてこの露骨さは、本作の構造上絶対必要なのだと思う。上田と戸田の内面告白では、例えば宗教による行動規範の欠如を埋め合わせて(しまって)いるものが曲がりなりにも示される。対して主人公の勝呂にはそれが描かれず、代わりに見せられるのは彼が日常の中で、いかに起こった事態に対峙し(せず)、翻弄され、状況に流されるのか、その様子である。だから彼の人生を変える生体解剖の描写は、読者にもショックを与え、その経験を共有させる必要があるのだろう。