【観た】chim↑pom「The other side」

無人島プロダクションchim↑pomの個展「The other side」を見てきた。アメリカ国境スレスレにあるメキシコの民家を訪ね、住民と交流しつつツリーハウスを作るドキュメンタリーと、その映像を軸にしたインスタレーション作品。↓
MUJIN-TO Production

■インスターレーションでは、ツリーハウスから遠景で捉えた国境壁の映像と、その遠景の中で国境に面して色々と悪巧みするchim↑pom及び地元の子供達の姿をアップで捉えた映像が対比的に見せられる。

chim↑pomが一貫して扱っているテーマのひとつに、映像メディア報道みたいなステロタイプな表象と、実際にその現場に息づく人の生き生きとした生態を前にした時の、リアリティのコントラストみたいな事があると思う。例えば震災後ならそれこそ「気合い100連発」がそうだし、それを強烈な身体感覚の喚起に寄せれば「ともだち」や「被爆花ハーモニー」になるし、コンセプトを純化させたら「Ellie vs Hollywood」とかになるんでしょう。そしてそれはとってもスリリングなものではあるんだけど。

■で、今回の「The other side」、遠景とアップの映像の対比という構造は、このテーマにそっくりそのまま乗ってると思う。でもちょっとそれが物足りないというか、「手クセ感」というか、映像の生き生きした感じがテーマに回収されて殺されてしまっているというか、そーゆー印象を持った。国境線というトピックは今超ホットなものだし、国境線の遠景の映像の迫力も凄いし、子供とかおばちゃんとかとのやり取りもほっこりするし、壁を実際によじ登って越えたり穴掘ってみたりと超面白そうなんだけど、なんか「見慣れた感じ」に回収されてしまう。

■例のヒロシマの本でchim↑pomのリーダーの卯城さんが、「ヒロシマの空をピカッと光らせる」というアイディアについて、「1、ヤバそう」「2、バカっぽそう」「3、意義深そう」という3つの条件が兼ね備わっていたと言ってるんですけど。今回の「The other side」に関して言えば、「1、ヤバそう」と「3、意義深そう」は満たしているんだけど、「2、バカっぽそう」の感じが欠落している。もちろん、だからダメだって訳ではないんだけど、「アイムボカン」とかで爆発の度に底抜けに笑っちゃう感じとか、「エリゲロ」でふとコールが止んだ時にドン引きしてしまう感じとか、そういう身体感覚を起爆させる材料がなくて、普通にハートウォーミングなドキュメンタリーになっている気がする。とはいえそういう「2、バカっぽさ」って多分、現場で生じたコミュニケーションや出来事に合わないやり方で無理にこじつけるとそれはそれは寒々しいものになるんだろうから、まあ難しいんだろうな、と。

■もちろん、例えば「ブレイキング・バッド」とか「悪の法則」とか、今のハリウッド制作コンテンツでのメキシコ表象ってトランプ云々の前から既に「ヤバさのインフレ」みたいになってたので、安心感の方に振り切る事がむしろ「新鮮」に映る契機はあると思う。しかし、ブレイキング・バッドも悪の法則も、どっちも露悪的ではあれど残念ながら超面白すぎてしまったので、それを相対化させる様なフックがもうちょっと強烈に欲しかったな、というのが無いものねだりな感想。

■つか、エリィちゃんがアメリカに入国できない理由って「I’m sorry U.S.A.」でパクられたせいかと思ってたんだけど、なんか違う理由があるんですね。

なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか

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SUPER RAT

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