【読んだ】白波瀬達也『貧困と地域 あいりん地区から見る高齢化と孤立死』

貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死 (中公新書)
■同じく中公から出てる『社会とは何か』という新書にある通り、「社会」とはシステムではなくてプロセスなんだな、という事を強く感じた。無論、あいりん地区の状況が政策の帰結として生まれてきた側面も無くはないんだが、同時にどの場面でも混在する様々なアクターの働きによって(例えばドヤ街としての純化や暴動を含め)状況が生み出されていく、ある意味ではダイナミズムがあるんだと思う。

■特にバブル崩壊以降増加した高齢単身世帯への対応は、のっぴきならない状況の中で、何とかそこにあるものの中で最適解が模索されるプロセスが見れる(反面それはちょっとした状況の変化に左右される不安定さもあり、やはり統合は必要だと。筆者は西成特区構想については両義的なんだが、そこでもボトムアップのプロセスが確保されている事が必要条件だとする)。筆者が言う通り、この先貧困が偏在化する事が確実な日本であいりん地区が課題先進地となるのは間違いないんだが、しかしここでの取り組みは、ある意味では濃密な「社会」の厚みが不断に形成されてきた事で可能になっている様にも思う。従ってやがて各地で顕在化する貧困の問題においても、各々の地域ごとの「社会」の厚みが本当に切実な問題になると思う。

■無論筆者もジェントリフィケーションやパターナリズムの危険は指摘していて、例えばあいりん地区ってやっぱり匿名的で流動的な人間関係が生きやすさをもたらしてもいたんだけど、包摂がもたらす管理的な側面が匿名性を剥奪してしまうというジレンマもあると。ここに丁寧に取り組む必要がありつつ、しかし同時に、迅速さも求められる喫緊な局面でもある事は想像に難くないですよね。

社会とは何か―システムからプロセスへ (中公新書)

社会とは何か―システムからプロセスへ (中公新書)